ロジクールの新ハイエンドマウスMX Master 2Sで「FLOW」を試してみた
ロジクールの一般向けマウスのハイエンドラインは代々「MX」の名を冠してきました。
以前、MX Revolutionという独自の機能を備えた製品がありましたが、その後その直系の血筋は途絶えた形になっていました。独自の機能にコストがかかりすぎて、ロジクール自身もうこの機能は作り込まない、と宣言もしていたのです。
ですが、数年前その特別な機能を備えたハイエンドマウスがMX Masterとして復活。その後継機が今回試した「LMX Master 2S」です。
純粋なマウスの機能を強化しただけではなく、ロジクール独自のマウスドライバのレベルで、Windows 10が作り込もうとしている「Cloud-Powered Clipboard」ライクな機能まで「FLOW」と銘打って実現してきました。
手元の環境でMX Master 2Sをじっくりと触ってみましたので、マウスそのものの使用感とFLOWのレポートをまとめてみます。
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目次
MX Master 2Sの機能の概要
MX Master 2Sはロジクールの一般ユーザー向けマウスのハイエンド機、という位置づけになります。
センサー解像度やポーリングレートなどの面では同社にはより高い性能を誇るゲーミングマウスが存在していて、そういった性能の面ではMX Master 2Sはロジクールトップの性能、というわけではありません。
センサー解像度は4,000dpi。一般用マウスとしてはかなり高解像度ですが、ゲーム用にはさらに高い解像度を持つマウスがたくさんあります。
ただ、MX Master 2Sのセンサーはガラスの上でもほぼ確実にトラッキングが可能な、ロジクール独自の高性能センサーとなっています。
PCとの接続はロジクール独自の2.4GHz帯の電波を使うUnifyingと、より一般的なBluetoothを利用できます。
マウス側はUnifyingでの接続に加えて2台のBluetoothデバイスとペアリングができ、本体裏側のボタンで任意にスイッチ可能になっています。
ボタン数は最近のマウスとしては控えめで、ホイールの押し込みによる中クリックボタンも含め、プログラマブルなボタンは5個だけです。
その代わり左右スクロールなどに使えるホイールを追加で備えています。
マウス本体の機能で最も特徴的なのは、スクロールホイールの「クリック・トゥ・クリックモード」(カチカチと1段階ずつ動く一般的なホイール動作)と、ロックを外してホイール素材の慣性で回転し続ける「フリースピンモード」の2つのモードを、ホイールを回転させる強さで自動切り替えできる「スマートシフト」機能を備えるところです。
縦に長いWebページの高速スクロールや、大きなExcelシートの閲覧などに大きな威力を発揮します。
MX Master 2Sの外観
MX Master 2Sは右手操作専用のマウスで、かなり人間工学的な配慮が行なわれた形状をしています。
親指がかかる部分がかなりえぐれた形状で、ここに親指を引っかけるようにして持ち上げる形になるでしょう。
サイズは大きめで背中の高さも比較的あるタイプです。無線接続でバッテリーを内蔵するため、重量もそこそこあります(145g)。
親指が自然にかかりそうな部分には、左右スクロールなどに使うサムホイールがあります。
デフォルトでブラウザなどの進む・戻る機能が割り当てられたボタンはサムホイールの後ろ側に配置されています。
メインのホイールの後ろ側にはプログラマブルなボタンがあり、標準では、メインホイールの回転モードの切り替え機能が割り当てられます。
また、親指の下側に一つプログラマブルなボタンが隠されています。
裏側には前から、電源スイッチとセンサー、接続先切り替え用のボタンがあります。
マウスパッドとの接触・摩擦を減らすために裏面もかなり複雑な形状です。
また、マウスの先端に充電用のコネクタを持ちます。
マイクロUSBやType-C形状ではなく、ロジクールの独自形状です。
MX Master 2Sの使用感
MX Master 2Sは先代のMX Masterと形状は全く一緒ですので、MX Masterを快適に利用できていたユーザーならば全く同じ感覚で活用できるでしょう。
手へのフィット感
サイズ感は一般的な成人男性の手のひらのサイズと思われる著者は、完全なかぶせ持ちにはサイズが小さく感じます。特に背中の高さが足りない感触です。
つまみ持ちをするにはサイズが大きすぎ、重量もある感じです。
著者はかぶせ持ちとつまみ持ちの中間ぐらいの気持ちで快適に使えています。
マウスのサイズ感はこれぐらいです。
ポインタ移動速度
センサー解像度が先代から倍に高解像度化した所はしっかりと使い勝手にも現れており、ポインタ移動速度の調節範囲が大幅に広がりました。また、速度調節のきめ細やかさも大幅に向上したようです。
先代はポインタ移動速度を最速に設定しても、WQHDディスプレイ(2,560 x 1,440ドット)ですら速すぎない程度の移動速度が限界で、4kディスプレイには遅めの設定までしか行えませんでした。
MX Master 2Sでは、手元のWQHDディスプレイの環境ならば、ポインタの移動速度は遅い方から1/3ぐらいの設定で十分な移動速度が出ます。
4kを超える解像度のディスプレイでも不満が出ない移動速度が出せそうです。
センサー解像度が高くなってマウスの移動に対する感度が高まると、マウスの微妙なブレに過敏になってダブルクリックすらやりにくくなるケースがありますが、MX Master 2Sではそんな感触は今のところありません。
センサー解像度が適切なのか、ドライバレベルの工夫でそのあたりを吸収しているかのいずれかだと思います。
スマートシフト
スクロールホイールのスマートシフト機能は、切り替わる強さの閾値設定をユーザーそれぞれの使い方に合わせて初めてスムーズな使い勝手になります。
著者はかなり弱めの設定でちょうどいいポイントになります。
ホイールのラチェット感は先代よりもかなり改善されて気持ちの良い感触になりました。その代わり操作時の動作音はやや大きくなった感じです。
また、スマートシフトの自動クラッチ切り替えの動作音も大きくなった印象です。
動作のキレ自体はとても良くなっているのですが、静かな環境ではちょっと気になるレベルの動作音かもしれません。
ソールの滑り
MX Masterもそうでしたが、MX Master 2Sもマウスのソールの滑りはあまり良い方ではありません。どちらかと言えば「止まり」を重視したソールになっていると思います。
滑り重視のユーザーはマウスパッドに良く滑るタイプのものを用意した方が良いかもしれません。
バッテリーの持ち
バッテリーは無線マウスとしてはかなり持つ方だと思いますが、PCを毎日長時間使用するユーザーの場合にはバッテリーは1週間は持たないと思います。
その代わりと言ってはなんですが、MX Master 2Sはケーブルを接続して充電しながらの利用が出来ます。少々付属の充電用ケーブルが堅いところが残念ですが。
製品選択時・使用時のちょっとした注意点
MX Master 2Sに限りませんが、人間工学的な考慮を行なった形態のマウスは、フィットする人には無二の存在になってくれますが、合わないユーザーには全くマッチしないタイプの製品だと思います。
可能であれば一度家電量販店などで、手のひらへのフィット感はチェックしてから購入することをお勧めします。
また、MX Master 2Sでは進む・戻るボタンがとっさに指を送れる場所にはありません。このためこのボタンを多用するユーザーは注意が必要です。
この二つのボタンの押し圧は比較的固めのため、指をボタンの上で待機させることは出来ます。そういった押し方ならボタンの間の「谷間」が深いため、ボタンの押し分け自体は思いの外難しくはなかったりします。
使いこなしのコツ的なもの
MX Master 2Sはプログラマブルなボタン数が少ないため、マクロ的にボタンを多用するユーザーにはちょっと機能不足かもしれません。
その代わりマウスのサポートソフトである「Logicool Options」では、マウスのドライバレベルで簡単な「マウスジェスチャ」をサポートしています。こちらに機能を割り振ることがボタン不足の対処策になるかもしれません。
特にとっさに押しにくい場所にある進む・戻る機能は、マウスジェスチャで代用するほうが何かと楽でしょう。
マウスジェスチャをサポートするブラウザを愛用しているユーザーは、同様の使い勝手でエクスプローラーなどが利用できるようになるメリットもあります。
また、スマートシフトを使いこなすには、上でもちょっと触れたとおりユーザーそれぞれの使い方にあったモード切り替えの閾値を見つけるのがキモです。
あとは若干の慣れで高い便利性を手に入れられるでしょう。
ハマると他のマウスが使いにくく感じてしまうようになるリスク(?)はありますが。
FLOWとは?
複数の新しいロジクール製品(マウス、トラックボール、キーボード)で実現されたFLOWは、ごくおおざっぱにまとめると、複数台のパソコンをあたかも1台のパソコンのごとくにまとめて操作可能にする機能です。
ソフトウェアで実現した「自動PC切り替え機」と考えても良いかもしれません。
マウスとキーボードの両方をFLOW対応機にすると、ほぼ完全な形のパソコン自動切り替え機能になってくれるはずです。
FLOWではそれに加えてWindows 10で開発が行なわれている「Cloud-Powered Clipboard」の機能と同様のものをマウスドライバレベルで組み込んでしまいました。
FLOWでリンクした中の1台のパソコンでファイルをコピー、その後、別のパソコンにポインタを持って行った後にペーストすることで、複数の別のパソコン、という壁を越えてファイルやデータのやりとりを非常に簡単に行うことができます。
ただFLOWには、リンクするパソコン同士が「同じネットワーク(LAN)内」になければならない制限がありますので、完全にCloud-Powered Clipboardと同等の機能とはならないのではないかと思われます。
FLOWを試す
FLOWを利用するには大前提として、リンクする全てのパソコンにロジクールのマウスサポートソフトである「Logicool Options」の最新版をインストールしておく必要があります。
次にMX Master 2Sと複数のパソコンをペアリングします。
独自方式の無線接続であるUnifyingのレシーバーをつないだPCが1台目になりますので、2台目以降をBluetoothで接続していきます。
その次にLogicool OptionsをリンクしたいPCそれぞれで起動し、「FLOWを有効化」ボタンをクリックして設定機能を動作させます。
この際、どのPCにFLOWで使うマウスを認識させておけば良いのかなどの手順、実は正解がよく分かりませんでした。
何度かPCの間を行き来しつつ「再試行」などのボタンも駆使して、リンクさせたいPC全てでFLOWが有効化できればOKです。
コントロールするPCの切り替え
FLOWでリンクしたPC間でコントロールするPCを切り替える際には、Logicool Optionsで設定した側の画面の端までポインタを持って行くだけでOKです。
ドライバが自動で接続先を切り替えて、すぐに別PCのポインタのコントロールが出来るようになります。
わずかですが遅延はあり、著者の環境では切り替え時間の体感は0.5秒以下。
Unyfiying接続からBluetooth接続への切り替えの方が、わずかに時間が余計にかかる感触です。
切り替え時間はほぼ一瞬といっていい程度のものですが遅延はゼロではないため、デュアルディスプレイのつもりで視線を移動させると、視線の先がポインタの移動を追い越してしまいます。
この部分はちょっぴり慣れが必要かもしれません。
慣れるまでは制御先が切り替わったあとポインタを見失いがちですので、切り替え後数秒ぐらいポインタの位置に目立つマーカーを表示してくれる機能があるとうれしいかもしれませんね。
PCをまたいだコピペ
FLOWでは接続先PCの自動切り替えだけではなく、PCをまたいだデータのコピー&ペーストが可能になっています。
操作には特に何も特別なものがないのも素晴らしいところです。
1台目のPCでファイルをコピー、
2台目のPCに制御を移してペースト。
それだけの操作でPC間のデータの移動が行えてしまいます。
ほぼ完全にシームレスに2台のPCが「結合」してしまったようなイメージになります。
ファイルだけでなく、文字列や画像データの移動も同じように行えます。
例えば、1台目のPCでクリップボードに画面のハードコピーを採取し、2台目のPCでその内容をお絵かきソフトに貼り付ける、といったことがごく当たり前に行えます。
Windows PC間だけではなくWindowsとMacの間でも同様の機能が実現されますので、複数のOSを併用するユーザーも含め、操作環境を大きく改善出来る可能性のある機能になっていると思います。
まとめ
マウスとキーボードはパソコンを使う中で最も触れている時間の長い周辺機器たちです。
製品選択の際に最も重要になるのはそれぞれの製品自体の性能ではなく、あくまでそれぞれのユーザーにマッチする製品が選べるかどうか、という部分になります。
ですがMX Master 2Sのように、新しいテクノロジーでさまざまな作業の改善を図れるかもしれないデバイスには導入を検討する価値が十分にあると思います。
MX Master 2Sは売価が1万円以上と、マウスとしてはまさにハイエンド製品になります。
導入のハードルは高いと思いますが、この使い勝手がマッチするユーザーには十分なリターンのある製品になるはずです。